プロダクトマネージャーを長く続けていると、ある種のウイルスに感染します。「世界を変える症候群」です。
私たちはプレゼンで破壊的イノベーションを説き、週次定例で数十億ドルのTAM(獲得可能な最大市場規模)を正当化し、カフェで「競合優位性がない」と小さなツールを笑います。「ハイレベル」で考え、「根本的なロジック」を探求し、「業界をエンパワーメントする」ように訓練されているからです。
この壮大な物語は魅力的です。午前2時に飲み過ぎた後の、自信に満ちた宣言のような心地よさがあります。
しかし現実はどうでしょう?私たちのほとんどは、宇宙に衝撃を与えるずっと前に、「日曜日の食料品の買い出し」という現実に押しつぶされています。
壮大な物語の罠
私たちは騙されています。
テック業界全体が、ある特定の価値観を売り込んでいます。プラットフォーム、エコシステム、大規模言語モデル(LLM)だけが「本当の仕事」だと。買い物リストを整理するアプリを作るなんて、「視野が狭い」「ビジョンがない」と言われます。
しかし、これこそが、大企業のシニアPMたちがロードマップを磨いている間に、個人開発者が最初の1ドルを稼ぎ出す理由なのです。
料理は、フライパンが温まるずっと前から始まっています。それは、紙切れに走り書きした材料、献立への悩み、タヒニ(練りゴマ)がどの通路にあったか思い出そうと店内を彷徨う、あの小さな混沌とした瞬間から始まっているのです。
これらの瞬間は些細ですが、リアルです。そして、とても疲れます。
コードを書いているとき、私はよく映画『フォレスト・ガンプ』のあの羽を思い出します。壮大な目的地も、複雑なナビゲーションシステムもありません。ただ風に身を任せ、静かに舞い降りる。その瞬間を生きているのです。
小さな「痛み」の力
面白いことに気づきました。私の友人たちのスマホは、「人生を変える」ようなアプリでいっぱいです。かつて私も作りたいと願ったようなアプリです。
- 睡眠ハックアプリ(完璧に眠れないという不安を煽る);
- 時間管理アプリ(設定だけで1時間かかる);
- 経済的自由を手に入れるためのアプリ(スーパーの価格に悩んでいるのに)。
でも、彼らが実際に開き、心を軽くしてくれるアプリは?それは多くの場合、「退屈」なものです。
壮大な物語と企業によるガスライティングに満ちた世界で、私たちは疲弊しています。「リスト」の精神的負荷は、私たちが認める以上に重いものです。健康ビッグデータを管理するツールではなく、「牛乳を買って。3番通路にあるよ」と教えてくれるツールが必要なのです。
これこそが「処方箋」です。私たちを「より良く」するツールはもう十分です。私たちを「より軽く」してくれる、静かな助手が必要なのです。
シェフではなく、静かな助手に
これが、私が DishPal を作った理由です。
DishPalは料理を教えません。美食家のためのSNSになろうとも思っていません。ただ、あの混沌とした「準備」の時間を少し軽くしたかっただけです。
作りたいものを伝えるだけ——料理名を入力するか、雑なレシピを貼り付けるだけで、AIが静かに解析します。そして、すべての材料を通路ごとのカテゴリーに整理してくれます。
「もうメモと格闘したり、暗算したりする必要はありません。欲しいものを伝えるだけで、静かな助手が明確で整理されたリストに変えてくれます。通路ごとに整理されるので、迷子のようにジグザグ歩き回ることなく、スムーズに買い物ができます。」
そして、データを渇望する企業の時代にあって、DishPalは別の方法で静かです。プライバシーファーストなのです。APIキーはあなたのデバイスに残り、データはあなたのものです。あなたを尊重し、そっとしておいてくれます。
DishPalが世界を変えるとは期待していません。しかし、もしスパイスを探す10分を節約できたり、本当に必要だったものを買い忘れるのを防げたりしたら……それで十分です。
それは小さな幸せです。そして今の時代、小さいことこそが新しい「壮大」なのです。
最後に
自分のレガシー(遺産)について悩み続けているすべてのプロダクトマネージャーと個人開発者へ提案があります:
雲の上から降りてきてください。あなたの周りにある、無視された、リアルで、具体的な、あるいは「馬鹿げた」ニーズに目を向けてください。チャンスはそこに隠れています。
食の未来を再発明しようとしないでください。ただ誰かが夕食の買い物をするのを、手伝ってあげてください。